
介護士の復職で失敗しないための11のチェックポイント
「サービス残業が多く低賃金である」「腰痛でつらい」「職場の人間関係でストレス溜まる」など介護職を離職する理由は様々です。介護の仕事はかなりハードで、メンタル的にもきついため、辞める人も少なくはありません。
しかし一方で、経済的な理由や資格をいかしたいといった理由から、復職を希望している潜在介護福祉士も多くいます。
ここでは、介護福祉士が復職する前に知っておくべきことをご紹介しています。
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目次
潜在介護福祉士とは
潜在介護福祉士とは、資格を有しているのにもかかわらず介護等の業務に従事していない介護福祉士のことです。厚生労働省の調査によると、平成19年9月末の時点で潜在介護福祉士の数は約22.5万人となっています。これは、介護福祉士資格取得者の35%にあたります。つまり、介護福祉士の約3人に1人は、潜在介護福祉士というわけです。
介護の現場は常に人手不足です。このため、厚生労働省は潜在介護福祉士が復職しやすいように、労働環境の改善や給与の見直し等を図っています。
介護士の復職前にチェックすべきこと
まず、不利益な取扱いがされていないかチェックしましょう。育児・介護休業法では、労働者が育児休業や介護休業を取得したことを理由として、事業者は解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
必ず以下の項目をチェックしましょう。
①解雇すること
②期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
③あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること
④退職または正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行なうこと
⑤自宅待機を命ずること
⑥労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限または所定労働時間の短縮措置等を適用すること
⑦降格させること
⑧減給をし、または賞与等において不利益な算定を行なうこと
⑨昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行なうこと
⑩不利益な配置の変更を行なうこと
⑪就業環境を害すること
※平成16年厚生労働省告示460号「事業主が講ずべき措置に関する指針」より
罰則は特に定められていませんが、この規定に違反する措置は民事上無効であると考えられており、労働者に財産的損害や精神的苦痛が生じた場合には損害賠償請求の対象にもなり得ます。あくまで、育児休業等の取得自体を理由として取扱いがなされた場合であり、復職後の状況に応じて労働条件の変更を行なうことが直ちに違法となるわけではないことに注意してください。
そもそも使用者には労働契約の範囲内において、労働者をどこに配置しどのような業務に従事させるかを決定する「人事権」があり、必要であれば復職後の労働者に対しても、人事権に基づいて職務変更や配置転換を行なうことができます。仕事給制度や職能給制度などについても、人事権に基づいた根拠が就業規則などにある場合には、賃金の減額も有効です。ただし、人事権の行使も、それが必要かつ合理的な理由に基づくものでなければ、人事権の濫用であり無効です。特に賃金の減額を伴う場合には、裁判所における合理性の判断が厳格になされる傾向があります。
介護士の職場復帰の流れとは
図1
①病気休業開始及び休業中に知っておくべきこと
・傷病手当金などの経済的な保障
・不安、悩みの相談先の紹介
・公的または民間の職場復帰支援サービス
・休業の最長(保障)期間
②主治医による職場復帰可能の判断について
主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書が必要になります。この診断書には、就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見が記入されます。主治医による診断は、日常生活における病状の回復の程度に基づいて、復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復していると判断しているわけではないことに注意してください。職場で必要とされる業務遂行能力の内容等については、産業医等に相談することが重要です。
また、主治医に職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報をあらかじめ提供しておき、労働者の状態が就業可能であるというレベルに達していることを主治医の意見として提出してもらうようにすると良いでしょう。
③職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成の流れ
職場復帰支援プランとは、休業していた労働者が復職するにあたって、復帰日や就業上での配慮など個別の具体的な支援内容を定めたもののことです。
ⅰ情報の収集と評価
職場復帰の可否については、必要な情報を収集し、さまざまな視点から評価を行い総合的に判断されます。
ⅱ職場復帰の可否についての判断
事業場内産業保健スタッフ等が中心となって判断します。
ⅲ職場復帰支援プランの作成
以下の項目について検討し、職場復帰支援プランを作成します。
・職場復帰日
・管理監督者による就業上の配慮
業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など
・人事労務管理上の対応等
配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否及び必要性
・産業医等による医学的見地からみた意見
安全配慮義務に関する助言、職場復帰支援に関する意見
・フォローアップ
管理監督者や産業保健スタッフ等によるフォローアップの方法、就業制限等の見直しを 行うタイミング、全ての就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期についての見通し
・その他
労働者が自ら責任を持って行うべき事項、試し出勤制度の利用、事業場外資源の利用
④最終的な職場復帰の決定
③を踏まえた上で、事業者によって最終的な職場復帰の決定が行われます。
・労働者の状態の最終確認
疾患の再発の有無等について最終的な確認を行います。
・就業上の配慮等に関する意見書の作成
産業医等によって「職場復帰に関する意見書」 等が作成されます。
・事業者による最終的な職場復帰の決定
事業者は最終的な職場復帰の決定を行い、就業上の配慮の内容についても併せて労働者に対して通知します。
・その他
職場復帰についての事業場の対応や就業上の配慮の内容等を労働者から主治医に伝えましょう。
⑤職場復帰後のフォローアップ
職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しが行われます。
・疾患の再発、新しい問題の発生した時の対応についての確認
・勤務状況及び業務遂行能力の評価
労働者の意見だけでなく、管理監督者からの意見も合わせて客観的な評価を行います。
・職場復帰支援プランの実施状況の確認
職場復帰支援プランが計画通りに実施されているかを確認します。
・治療状況の確認
通院状況、病状や今後の見通しについての主治医の意見を労働者から確認します。
・職場復帰支援プランの評価と見直し
さまざまな視点から評価を行います。問題が生じている場合には、職場復帰支援プランの内容の変更することもあります。
・職場環境等の改善等
よりストレスを感じることの少ない職場づくりをめざして、作業 環境・方法や、労働時間・人事労務管理など、職場環境等の評価と改善を検討します。
・管理監督者、同僚等の配慮
職場復帰をする労働者を受け入れる職場の管理監督者や同僚等に、過度の負担がかかることのないよう配慮が行われます。
育児休業等からの復職
育児・介護休業法では、育児休業等を取得したことを理由とする不利益な配置転換を禁止しています。また、厚生労働省の指針では、「育児休業及び介護休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることに配慮」すべきとされています(平成16年厚生労働省告示460号)。そのため、原職以外の職務に従事させる必要性がない場合には、原職に復帰させるようになっています。
原職復帰に関する指針はあくまでも努力義務にすぎないため、これに反したからといって直ちに違法となるわけではないことに注意してください。労働者との間で勤務場所や職種を限定する合意がされていない場合は、必要かつ合理的範囲において、人事権に基づく職務内容や配置の変更を行なうことが可能です。
・復職後の処遇に関する裁判例
慈恵大学附属病院事件(東京地裁昭和54年4月24日判決)
内容:育児休業を終え復職しようとした看護婦が、原職とは異なる科へ配置転換された事件。
裁判所は、看護婦等の勤務場所の指定やその後の配置転換については、総婦長が「各病院内における業務上の必要、看護婦等の教育計画、看護婦等の間の公平、育児、母体保護等諸般の事情を考慮して行なう。」とし、従来からの看護婦の産前産後休暇・育児休業等の長期欠勤の場合の慣行に沿う措置であること、病院の社会的使命や総婦長の権限、職責等に照らして客観的な合理性のある慣行であること等を理由にこの配置転換を有効とした。
実際にも、原職の具体的な業務内容と復職後の当該労働者の育児・介護状況によっては、休業前と同様の職務を円滑に遂行することが難しいと考えられる場合もあるでしょう。
職務変更の有効性は、指針の判断要素に照らし、労働者に与える不利益の程度と当該措置の業務上の必要性を総合考量して判断されることになります。
これに関連して、育児・介護休業法26条では、就業場所の変更を伴う配置転換について、「その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。」と定められています。
具体的に配慮すべき事項として、
・当該労働者の子の養育または家族の介護の状況を把握すること
・労働者本人の意向を斟酌すること
・配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをした場合の子の養育または家族の介護の代替手段の有無の確認を行なうこと
などが挙げられています。
また、労働者が配置転換により遠隔地に転勤となると病気の家族の介護・看護ができなくなるといったケースでは、労働者に著しい不利益を与えると判断されている例が多く見られます(ネスレ日本配転事件、大阪高裁平成18年4月14日判決等)。
介護休業後の配置転換においては特に注意が必要でしょう。
http://www.njh.co.jp/magazine_topics2/gt34/2/
私傷病休職からの復職
私傷病休職からの復職時の職務変更についても、基本的な考え方は育児休業等の場合と同様で、適正な人事権のなかであれば行なわれます。私傷病休職からの復職の場合、安全配慮義務の観点が加わるため、私傷病の状況に応じて事前に産業医等の意見を確認するなど、その措置の妥当性を検討することが重要です。特にうつ病などの精神疾患による私傷病休職からの復職者については、回復状況を正確に把握が難しく、復職により再発する可能性もあります。
試し出勤により原職に耐えられるかなど状況を見極めた上での慎重な対応が望ましいでしょう。
復職後相当期間経過後も、疾病の状況によっては人事権の有効性に影響を与えますので、注意が必要です。
・ 復職後の処遇に関する裁判例
鳥取県・米子市事件(鳥取地裁平成16年3月30日判決)
内容:女性教諭が私傷病休職からの復職後1年間本校で補助担任として勤務していたが、うつ病等の症状が再度悪化したため、校長が、職務を軽減するためとして分教室への配置転換を命じた事件。
裁判所は、配置転換により職務が軽減されたとはいえず、むしろ勤務環境を大幅に変更し精神的負担を与えるものであるとし、それにもかかわらず、この配置転換に際して何ら医師の意見を聞くなどしないまま命じたため、原告の病状に対して十分な配慮を欠いたままなされたものであるといわざるを得ないとして、違法と判断した。
東朋学園事件(最高裁平成15年12月4日判決)
内容:賞与支給要件について就業規則で出勤率90%と定め、出勤率の算定にあたって産前産後休業日数および育児のための勤務短縮時間を欠勤日数に算入するという取扱いについて争われた事件。
裁判所は、従業員の年間総収入額に占める賞与の比重が高いため、賞与が支給されない者の受ける経済的不利益が大きいこと、従業員が産前産後休業を取得し、または、勤務時間短縮措置を受けた場合には、それだけで賞与の支給を受けられなくなる可能性が高いことなどから、「労働基準法等が上記権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものというべきである」として、公序良俗に反するため一部無効とした。
賃金の減額
賃金は労働者にとって最も重要な労働条件のひとつです。
職務変更や配置転換によって賃金の減額する場合、その措置の有効性は厳格に判断されます。
まず、手続面として、復職者について賃金を減額する場合には、原則として就業規則等の明示の根拠がなければ認められません。仕事給制度・職務給制度等により職種や職務の変更と賃金減額に関する明示的な根拠がない限り、賃金の減額は困難であると考えておいてよいでしょう。特に私傷病休職からの復職に関して完治していない場合は、担当職務を原職より軽易なものに変更することも多く、会社は担当業務の量・質・責任を軽減することにより賃金も減額してもよいと考えがちです。しかし、就業規則上の明確な根拠がない限り、一方的な減額は違法な措置として無効となる可能性が高いです。
就業規則等の根拠規定がある場合でも、賃金の減額は労働者に大きな不利益を及ぼすことから、裁判上、「その不利益もやむなし」とする程度の高度の必要性や合理性がなければ認められない傾向にあります。この傾向は大幅な減額になればなるほど強まります。
また、職務変更などの実質的な業務の変更を伴わず賃金だけを減額することは、原則として休業・休職を理由として賃金の減額を行なったこととなり、合理性が認められないと考えられます。ただし、時短勤務の場合、現に働かなかった時間について賃金を支払わないことは、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に則ることになります。
賞与の算定
就業規則上、賞与算定基準のひとつとして、出勤率が定められている場合があります。では、賞与の算定時に休業・休職期間を欠勤扱いとし、賞与を減額することはできるのでしょうか。
まず、一般的に賞与基準のひとつとして出勤率を用いる規定の有効性については、労働者の出勤率低下防止などの観点から一応の合理性を有すると考えられています。しかし他方で、これに伴って育児・介護休業や私傷病休職の取得者が多大な不利益を受けることになれば、休業・休職制度の趣旨にはかなわないことになります。
出勤率を賞与算定基準とする場合、「出勤率100%~90%の場合全額支給」「90%~70%の場合8割支給」というように段階的な支給要件を設定すると、無効となるリスクを軽減できるでしょう。
職務変更・減額の際のトラブル防止策
育児休業等や私傷病休職からの復職後に職務変更や賃金の減額を行なう場合は、無効となるリスクが潜在することになりますが、これはあくまでも会社の措置として一方的に行なう場合です。
紛争予防の観点からすれば、その必要性を十分に説明・説得し対象従業員の合意を得た上で、勤務場所、勤務時間、賃金等の労働条件の変更を行なうことが最も好ましいでしょう。この時、合意の成立を後々争われないよう書面化しておくようにしましょう。また、合意を得られずやむなく一方的な措置を行なう場合に備えて、あらかじめ就業規則に復職後の賃金、配置その他の労働条件に関する事項を定め、これを労働者に周知させるための措置を講じておくことが有効です。
・私傷病休職からの復職に関する就業規則の規定例
第○条(復職)
1 休職期間の満了日以前にその事由が消滅した場合は、会社指定の医師の診断書を添付し、会社の承認を得たうえで復職することができる。
2 会社は、休職期間の満了日以前にその事由が消滅したものと認めたときは、復職を命ずる。
3 復職後の職務は、原則として休職前と同一とする。ただし、従前の職務への復帰が困難または不適当と会社が認めた場合は、私傷病の回復の状況その他の事情を勘案して、業務内容、勤務時間等を変更することがある。
4 前項ただし書に基づき、復職時に業務内容の軽減、勤務時間の短縮等の措置を取る場合には、その状況に応じ、降格および賃金の減額等の調整をなすことがある。
当該規定によっても、会社の自由裁量で賃金の減額等を行なうことが許されるわけではなく、あくまで必要性・合理性の範囲内となります。
しかし、就業規則上の明確な根拠に基づく人事として有効となる可能性を高められますし、労働者にとっても復職後の処遇についての予測可能性が生まれ、トラブル自体を防ぐ効果があると思われます。
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